【製造業必見】トレーサビリティとは?意味や管理方法、おすすめのシステムを解説
製造業をはじめ、食品や医療用品、流通、IT関連など、幅広い業界で導入されている「トレーサビリティ」。原材料の仕入れから製品出荷まで、各工程を追跡できる状態にすることです。業種によって細かな定義などが異なり、一部の食品などはトレーサビリティが法律で義務付けられています。今回は製造業のトレーサビリティについて、重要視される理由、導入メリット、おすすめのシステムなどを解説します。トレーサビリティで自社製品の品質向上や顧客満足度の向上を目指している製造業のご担当者様は、ぜひ参考にしてみてください。
トレーサビリティの意味|「追跡」して品質を保証する仕組み
トレーサビリティ(Traceability)とは、英語の「Trace(追跡)」と「Ability(能力)」を合わせた言葉で、日本語では「追跡可能性」と訳されます。完成した商品や製品について、その製品がいつ・どこで、何を使って、どのように造られたのかが分かる状態にすることです。製造業をはじめ、食品や生活用品、医療品、ITなど、幅広い業種・業態で、製品の透明性を高めるための取り組みとして導入されています。
トレーサビリティがどのように品質管理に役立つのかを紐解くヒントとして、なぜトレーサビリティが重要視されるようになったのか、その背景を見ていきましょう。
トレーサビリティが重視される背景|牛肉・米の義務化
「トレーサビリティ」が重視されることとなった背景に、「牛・牛肉」と「米」で起きた歴史的な出来事が挙げられます。
牛・牛肉のトレーサビリティ|BSE問題
食用の牛・牛肉は、法律でトレーサビリティが義務付けられています。法制化の背景にあるのは、1986年にイギリスで確認された牛の病気「BSE(Bovine Spongiform Encephalopathy、牛海綿状脳症)」で、日本でも2001年に最初の感染が確認されました。感染した牛の特定部位を食べた人間にも感染することから、日本政府は、発生国からの輸入停止やBSEの全頭検査などを行ったほか、食の安心・安全を確保するために、2003年に牛・牛肉のトレーサビリティを法制化したのです。
※日本では、2009年1月に確認された牛を最後に、国内で生まれた牛でのBSE発生報告はありません。
(参考:農林水産省『牛・牛肉のトレーサビリティ』)
米のトレーサビリティ|事故米の不正転売
米の流通を管理する「米トレーサビリティ法」は、2010年に施行されました。きっかけは、2008年に起きた事故米(汚染米)の不正転売事件です。事故米とは、基準値超の農薬やカビ毒が検出された米で、工業用・飼料用として食用よりも安価で販売されます。この事故米を、卸売会社が工業用として政府から格安で買い付けて食用として不正転売していたことで、消費者に不信・不安が広がる事態となりました。
事故米が食用として流通した原因の一つが、米の管理が法制化されていなかったことです。出荷先の記録がなかった、事故米を使用した加工食品のロットが分からず追跡できなかったことなどを受けて、米の流通で問題が発生したときに原因を迅速に特定できるように、米のトレーサビリティが法制化されました。
(参考:農林水産省『米トレーサビリティ法の概要』)
トレーサビリティは2種類ある
トレーサビリティは、サプライチェーン全体を俯瞰して捉える「チェーントレーサビリティ」と、その中にある、一つの工程をクローズアップする「内部トレーサビリティ」の2つに分けられます。それぞれの意味や違いを確認しておきましょう。
チェーントレーサビリティ
チェーントレーサビリティとは、製品の原材料・部品の調達から、製造・在庫管理・配送・販売・消費まで、サプライチェーン全体で履歴を追跡できる状態にすることです。上流工程の企業は自社の製品がどこに出荷されるのかを知ることが可能で、下流工程の企業はどこで製造された原材料や部品が使われているのかを正確に把握できます。自社だけでなく、出荷先や物流業者など広い範囲で追跡するトレーサビリティが、チェーントレーサビリティです。
内部トレーサビリティ
内部トレーサビリティとは、生産から消費までのチェーンにおける特定の製造プロセスなど、ある範囲に限定して、部品や製品の移動を把握できる状態にすることです。例えば製造業であれば、自社の工場内で、各部品の製造工程や組み立て工程、検査工程などの情報を追跡するなどです。追跡が特定の範囲内で完結する点が、チェーントレーサビリティとは異なります。
それぞれのトレーサビリティをきちんと管理できるよう、社内・社外の連携体制を構築することが重要です。
トレーサビリティの追跡方法|トレースフォワードとトレースバック
トレーサビリティの追跡には、2通りの方法があります。
製品を追跡する「トレースフォワード」
「トレースフォワード」とは、製品の原材料を起点に、出荷先まで製品のライフサイクルの順を追って追跡する方法で、不良品回収やリコール対応に不可欠なトレーサビリティです。
食品事業者(食品メーカー)を例に挙げて考えてみましょう。例えば製造した商品の原材料や製造工程・ラインなどに問題があったと判明した場合、該当商品のロットなどから出荷先を特定して、問題のある商品のみを回収することが可能です。商品が最終消費者にたどり着く前にトラブルを検知するための仕組みであり、予防的なリスク管理の意味合いが強い方法と言えるでしょう。
流れを遡及する「トレースバック」
反対に、「トレースバック」は製品がどこから来たのかの履歴を遡って製造工程や原材料を特定する方法で、製品に不良品が発覚したときに、早急な原因究明と対策の実行につなげるための仕組みです。例えば自社が出荷した製品で問題が発生した場合に、上流工程へと遡って、不良が発生したロットや原材料の製造元を特定します。不良となった原因や工程の調査を行い、原因に対する対策・改善を実施することで、品質の安定・向上につなげます。
製造業でトレーサビリティが重要な理由
トレーサビリティが製造業で重要視される理由として、次のようなことが挙げられます。
- 不良品の流出を最小限に防ぎ、迅速な対応を行う
- 責任の所在を明確にする
- 品質管理の効率化が必要
- 生産性向上
- 製品の品質向上
- 顧客からの信頼獲得や企業イメージ向上
一つずつ見ていきましょう。
不良品の流出を最小限に防ぎ、迅速な対応を行うため
仮にトレーサビリティが適切に管理されていない場合は、製品に問題が発生しても迅速な回収や修理などができず、被害拡大を食い止めるのに時間を要してしまいます。また、本来は回収しなくてもよい製品まで回収しなければならず、損害額が膨れ上がってしまうでしょう。トレーサビリティは、不良品の流出を最小限に保つために必要な仕組みといえます。
責任の所在を明確にするため
トレーサビリティは、製品に問題が発生したときに、どの過程に原因があるのかを特定することで、責任の所在が明確になります。
製品に関わる法律に、製造者が賠償義務を負うことを定めた「製造物責任法(PL法)」があります。問題がある製品が原因で生命・身体・財産に損害を被ったときに、被害者は製造業者等に対して損害賠償を求めることができると規定されています。
損害の発生が原材料・部品の欠陥に起因する場合でも、被害者は、最終製品の製造業者に対して損害賠償を請求できます。この場合、最終製品の製造業者は、原材料・部品の製造業者に対して、被害者に賠償した金額の全部又は一部を請求することが可能です。
従って製造業では、万が一自社の製品不良で損害が生じた場合に、製品の組み立てに問題があったのか、部品の設計に関する指示は誰が行ったのか、原材料に起因する欠陥なのかなど、責任の所在がどこにあるのかを明確にできる体制が必要だといえます。
(参考:消費者庁『製造物責任法の概要Q&A』)
品質管理の効率化が必要なため
経済産業省らが発表した『2022年版 ものづくり白書概要』によると、全産業に占める製造業の就業者割合は、約20年間で3.4ポイント低下しました。このように、製造業は人材不足が懸念されている業界の一つです。
製造に関わる人手が不足する中で、品質管理を徹底するには品質管理業務の効率化を図ることが不可欠です。トレーサビリティをきちんと管理していれば、問題が発生した際に原因がピンポイントで判明するため、改善が必要な部分に絞って対策を取ることが可能です。少ない人員で、ムダのない品質管理を行うことにつながるでしょう。
生産性向上のため
不具合や異常の発生率などの状況把握や改善にも役立つのがトレーサビリティです。原材料から出荷先まで、蓄積されたさまざまなデータを解析すれば、故障しやすいラインや異常が起きやすい設備などがデータから明確になります。設備や金型などの改善につなげることで、生産性向上が期待できます。
製品の品質向上のため
トレーサビリティで製品の流通データを蓄積することで、製品の品質向上につなげることもできます。製品に問題が発生したときに、その原因をを正確に把握できるため、具体的な対策を講じやすいためです。また、問題が発生しても早期解決を図ることができるため、品質安定効果も期待できます。
顧客からの信頼性獲得や企業イメージ向上のため
トレーサビリティの導入で、自社の信頼獲得や企業イメージ向上につながる効果も期待できます。トレーサビリティによって製品の原材料や部品の製造元が明確になることで、顧客(納入先)が安心して購入できるようになるためです。トレーサビリティの実施は、自社が安心・安全に対する配慮を行っている証明にもなることから、企業イメージ向上にも貢献するでしょう。
トレーサビリティの管理方法は?活用できる技術やシステムを紹介
トレーサビリティを適切に管理するには、自社だけでなく、原材料の製造元や顧客など関係各社と連携してデータを管理・共有する仕組みが重要です。トレーサビリティを管理する方法として、次のものがあります。
ブロックチェーン技術
ブロックチェーンとは、情報をいつでも活用できるような状態で蓄積しておく「データベース」の一種です。ネットワーク上の参加者(企業)が皆同じ構造のデータを保有・参照でき、履歴に変更があると、同じネットワーク上にいる参加者全ての保有データも同じ内容に更新される仕組みで成り立っています。
ブロックチェーン技術がトレーサビリティで活用される理由として、次のことが挙げられます。
- 記録されたデータは暗号化され、改ざんが困難な仕組みになっている
- どの企業も同じ構造のデータを利用するため、サプライチェーン全体で管理しやすい
- 複数個所で分散して管理するため、中央サーバーが不要で維持管理コストを抑えられる
物流や下請けなど多くの企業とつながりのある製造業では、ブロックチェーン技術を活用して原材料や流通過程などを記録してトレーサビリティを確保している企業もあります。
生産管理システム
トレーサビリティに活用できるもう一つの手段が、「生産管理システム」です。生産管理システムとは、原材料の入荷から製品の出荷まで、製造における各工程の業務データを収集・蓄積・分析するもので、さまざまなデータを一括で管理します。原材料の入荷や各製造工程を可視化し、製品をロット単位で管理するため履歴から製品を追跡しやすく、トレーサビリティ管理との親和性が高いシステムといえるでしょう。
【関連記事】生産管理システムの機能や導入のメリット・デメリット。気になる疑問も解決
トレーサビリティを高められる生産管理システム「ProAxis」
ここからは、トレーサビリティ管理にも対応している、おすすめの生産管理システムとして、キッセイコムテックが開発・販売している生産管理システム、「ProAxis(プロアクシス)」をご紹介します。
ProAxisについて
「ProAxis」は、キッセイコムテックが、製薬メーカーの情報子会社としての経験と、数多くの製造業へのシステム導入により蓄積したノウハウを活かして開発した生産管理システムです。製造現場のニーズに沿う、「適応性」「操作性」「柔軟性」を考慮したパッケージとなっています。
受注から出荷までの情報をシステム内で一元管理するため、製造工程に問題が発生した場合でも、ロット情報から原材料の入荷元や製造ラインなど、問題の原因特定を早期に実施可能です。
ProAxisの特徴
工場の基幹業務を全てカバーできる統合型の生産管理システムで、標準マスタからの所要量計算に基づく量産と、製番BOM(部品表)による個別受注生産の、どちらでも運用可能です。製造現場の使い勝手を重視した操作性で、シンプルな構成のマスタで日々の追加・修正も簡単なため、システムに不慣れな従業員でも少ない負担で使用できます。
さまざまなオプションを用意しており、柔軟なカスタマイズで標準機能では実現できない機能要件も高いレベルで実現可能です。企業の強みを生かした、柔軟なシステム構築をご提供します。
ProAxisを導入するメリット
「ProAxis」の導入にあたっては、“安心のOne Stop Service”として、要件定義から本稼働までしっかりサポートいたします。本稼働後は、お客さまごとに専用の保守問合せ窓口「i-Support」をご用意するため、初めてシステムを導入する企業様でも安心してご利用いただけます。
生産管理パッケージだけでなく、既存システムとの入れ替えや、クラウド環境、セキュリティーといった、プラットフォーム全体のご提案もお任せください。
「量産」にも「個別受注」にも対応できる生産管理・債権債務管理システム「ProAxis」
トレーサビリティを強化して、自社の競争力を高めよう
トレーサビリティは、不良品の流出防止、製品の安全性確保、自社のイメージアップなど、さまざまなメリットをもたらす重要な取り組みです。生産性を落とさずにトレーサビリティを適切に運用し、自社の競争力を高めて他社との差別化を図るために、生産管理システムなどを活用してトレーサビリティを強化していきましょう。