リードタイムとは?短縮する5つのメリットと具体的方法を解説
製造業において、リードタイムの適正化は、製造工程を効率的に進めるうえで欠かせません。そのため、「リードタイムを短縮することの利点を知りたい」「短縮のための具体的な方法が知りたい」という方も製造現場には多くいるのではないでしょうか。この記事では、リードタイムについて言葉の意味を説明するとともに、実際にリードタイム短縮に向けた取り組みが実施できるよう、具体例を提示しながらわかりやすく解説していきます。
リードタイムとは?
まずは、言葉の意味や基本的な考え方を確認しましょう。
リードタイムの意味
リードタイム(Lead time=LT)とは、製品の「開発」から「納品完了」までにかかる時間(期間)を指す言葉です。つまり、顧客が受注し、実際に製品を届けるまでにかかったすべての所要期間を表しますが、製造業においては「手配番数(手番)」「先行日数」「基準日程」と呼ばれることもあります。
リードタイムは工程ごとに分類され、業務改善を行う際の指標の一つにもなっています。リードタイムの最適化を図ることは、効率的な生産計画に欠かせない、重要な取り組みといえるでしょう。
リードタイムと混同しやすい納期との違い。日数の数え方は?
「リードタイム」と「納期」は、どちらも納品が完了するタイミングを示す言葉ですが、表記の方法が異なります。リードタイムは「期間」を意味するため、「●日間」と表記し、納品までに必要な日数を表します。一方、納期(納入期限)は「納品完了の期限」となるため、「●月●日」といったように、具体的な日付を用いて表します。
また、リードタイムの数え方は、発注当日を起点とし、翌日を「リードタイム1日」、翌々日を「リードタイム2日」と数えていくことが一般的です。ただし、条件が規定されている場合は注意が必要です。
例えば、発注日を金曜日として以下の場合のリードタイムの数え方を見てみましょう。
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「休業日を含まない」条件の場合
- 土日祝日はリードタイムに含めず、納品日までのリードタイムは3日となります。
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「休業日を含める」条件の場合
- 翌日から数え、納品日までのリードタイムは6日となります。
リードタイムの考え方は生産方式によって異なる
製造工程のどの過程をリードタイムに含めるかは、「個別受注生産」や「繰り返し生産」といった生産方式によって異なります。
個別受注生産の場合、受注から企画の立案や設計を経て、製造に入るため、全期間(トータルリードタイム)に開発・設計プロセスが組み込まれます。一方、繰り返し生産では、既存の製品を計画に沿って生産していくため、トータルリードタイムでは開発・設計プロセスが省略され、計画プロセスから開始されます。
こうした考え方を予め理解し、どういった生産を行うかによってリードタイムを算出しましょう。
リードタイムの種類
リードタイムは工程ごとに細分化されており、含まれるプロセスによって名称が異なります。業種や製品などによっても違いはありますが、今から紹介する各工程のリードタイムを最適化できれば、製品をスムーズに顧客の元へ届けることが可能となるのです。
企業によって呼称が異なる場合もありますが、ここでは代表的な6種類をご紹介します。
開発リードタイム|製品開発に要する期間
製品の企画・計画から開発に着手するまでの期間を、「開発リードタイム」と言います。これには、製品のコンセプト実現に向けて試作・試行を繰り返して細部を詰めていく「詳細設計」と、仕様の検討や工程計画などを行う「生産準備」のプロセスが含まれます。企画・開発時間が長くなると全体のリードタイム(トータルリードタイム)に大きな影響を与えるため、開発リードタイムの最適化は、企業が持続的に成長するうえで必要不可欠な施策といえるでしょう。
調達リードタイム|原材料などの仕入れに要する期間
「調達リードタイム」とは、製品の生産に必要な原材料や部品の発注から、製造現場に届くまでに必要な期間のことで、部品の選定や仕入れ先の決定に必要な時間なども該当します。調達リードタイムの計画をする際は、調達する材料が「製造品」である場合、後述の「配送リードタイム」や、仕入れ先の「製造リードタイム」「生産リードタイム」を考慮する必要があると考えましょう。
製造リードタイム|製造の開始から完了までに要する期間
「製造リードタイム」は、「生産リードタイム」とも言い、製品の製造・生産の開始から完成までに必要な期間です。製造・生産における全時間を指すため、各プロセス間の待機時間や検査時間、運搬時間などの他、不良品の作り直しにかかる時間も含みます。
配送リードタイム|製品の発送から納品までに要する期間
「配送リードタイム」は「物流リードタイム」とも呼ばれ、完成した製品を発送し、顧客に納品するまでの期間を指します。企業によっては、出荷指示からピッキング、検品、梱包など、出荷までに要する時間を指す「出荷リードタイム」と、出荷から配送完了までの「配達リードタイム」に細分化している場合もあります。
発注リードタイム・納品リードタイム|発注から納品に要する期間
商品の発注から納品が完了するまでの全期間であるトータルリードタイムは、顧客目線か企業目線かの違いにより名称が使い分けられています。企業目線(製品の提供を受ける側)を「発注リードタイム」、業者目線(製品を提供する側)を「納品リードタイム」といいます。
リードタイム短縮で得られるメリット5つ
リードタイムが長くなるということは、納品までの期間が長くなるため、「販売機会の喪失」「在庫管理コストの増大」「顧客満足度の減少」などが懸念されます。利益を拡大するためにも、リードタイムをいかに短くするかは、製造業において取り組むべき重要課題の一つです。ここでは、リードタイム短縮による効果を詳しくみていきましょう。
<メリット1>在庫管理コストの削減
リードタイムが短くなると、過剰な在庫や在庫管理コストの増加を防ぎ、効率のよい生産が可能になります。在庫量の最適化により在庫管理コストや在庫管理業務がスリム化されるため、業務効率の向上にもつながるでしょう。
<メリット2>業務効率化による時間的コストの削減
材料の検討時間や不要な作業手順・工程が整理できることもメリットの一つです。みつかった業務課題の改善を通じて「作業効率の向上」や「納品速度の向上」が見込まれ、時間的コストの削減が期待できます。
<メリット3>需要変動に対する対応力の向上
増産や生産抑制など、需要変動に対する対応力の向上が期待できることも、大きな利点です。例えば、生産性のない作業工程を削減し、手が空いた人員や機械を他の作業に割り当てることができます。人員配置や生産計画を柔軟に行うことは、作業効率や生産性の向上にもつながるでしょう。
<メリット4>キャッシュフローの改善
「時間的コストの削減」は、受注からキャッシュの受け取りまでの時間短縮につながります。また、「在庫管理コストの削減」による過剰な在庫の抑制は、資金の流出を防ぐことにもなるでしょう。こうしたキャッシュフローの改善によって、運用資金が確保できると、より多くの製品提供が期待できるでしょう。
<メリット5>顧客満足度向上による競争力アップ
品質やコストでの差別化ができない場合、納期までの期間が長いことは「販売機会の損失」や「顧客満足度の減少」につながります。昨今は、顧客が短納期化を重要視している傾向があるため、リードタイムの短縮を行うことで、高品質な製品を迅速に提供することができる他、他社との差別化や競争性優位を図ることもできるでしょう。
リードタイムの計算方法
リードタイムの計算方法には、主に「フォワード法」と「バックワード法」の2種類があります。それぞれについて説明します。
フォワード法
フォワード法は、製造の着手日を起点として工程ごとの日数を算出し、完了までの全日数を計算する方法です。並行して着手できる工程は重複して数えます。
着手日をあらかじめ設定し、順に計画していくため、最初の工程の開始日を早められることが特徴です。「並行して作業が必要な場合」や「納品を急ぐ場合」などに適しています。
バックワード法
バックワード法は、納品日から逆算し、工程ごとにどの程度日数をかけられるかを計算する方法です。
各工程が重複しないよう、余裕をもった計画を立てられることが特徴です。「納期が決まっている場合」や「作業を並行できない場合」に適しています。ただし、各工程でトラブルが発生した場合は、納期が遅れるリスクもあることに注意が必要です。
リードタイムを短縮するための取り組み
リードタイムを短縮するには、「不要な工程を削除する」「情報の共有や連携を強化する」「最適なプロセスに変更する」といった3つの方向性に基づいた対策が有効です。これらの方向性を踏まえて、各リードタイムごとの短縮方法を解説していきます。
開発リードタイムを短縮する方法
開発リードタイムの短縮方法は以下のとおりです。
「製品の仕様や材料・部品の共通化フロントローディング工程の優先順位付けと簡素化仕入れ先の変更技術やノウハウの共有施策市場の変化や潜在顧客のニーズの把握」
「製品仕様や材料・部品の共通化」により作業効率を高めることができ、スムーズな製造計画の実施につながります。企画スキルの底上げや生産性向上を目的として、技術や過去のノウハウを共有するための施策を行うのもよいでしょう。
またフロントローディングとは、前倒しが可能な作業工程を初期段階で行うことです。発生する可能性のある不具合を初期に予測できるため、製造途中での修正回数を減らすことができる他、コストの減少や生産効率の向上が見込めます。
調達リードタイムを短縮する方法
次に、調達リードタイムをみていきましょう。
「調達時間や生産計画の見直し他部門との連携強化仕入れ先の見直しや複数化BOMや在庫管理のデジタル化」
調達リードタイムが長期化する原因が自社にある場合は「BOMのデジタル化」や「在庫管理のシステム化」などが効果的です。一方、仕入れ先が原因の場合は、調達・生産計画を根本から見直すことも考える必要があるでしょう。また、不測の事態への対策として、他部門との連携強化や仕入れ先の見直し・複数化も有効です。急な設計変更や発注、仕入れ先での欠品が発生した場合などにも、本来の生産計画が維持できるでしょう。
【関連記事】BOM(部品表)とは?効果的な管理方法やシステム活用のメリット
製造リードタイムを短縮する方法
製造(生産)リードタイムの短縮には、以下の施策が有効です。
「各プロセスでの不要な工程の削減作業員のマルチタスク化、属人化の解消最新機器の導入による作業工程の効率化・最適化」
各プロセスでの不要な工程の特定には、「内段取りの多さ」「小ロット生産で繰り返し発生する付帯業務」「待ち時間や運搬時間が長期化する要因」「歩留まりの悪化」などをチェックするとよいでしょう。
配送リードタイムを短縮する方法
最後に、配送(物流)リードタイムを短縮する方法を紹介します。
「倉庫管理、ピッキング、検品、梱包方法などの業務プロセスの見直しIT管理システムの導入検討」
業務プロセスの見直し策としては、「動線に合わせたレイアウト構築」「効率の良い梱包方法や梱包材の採用」「出荷検品やピッキング作業へのハンディターミナルの導入」などが挙げられます。
リードタイムの改善には、生産管理システム「ProAxis」がおすすめ
リードタイムを短縮するには、生産プロセス全体を把握し、計画に沿って進めるよう適切な生産管理が重要ですが、それを実現するのが「生産管理システム」の導入です。生産管理システムとは、生産計画や受注・購買・在庫管理など、製造業のあらゆる業務を一括管理できるシステムのこと。キッセイコムテックで開発・販売している生産管理システム「ProAxis」は、受注から出荷・売上管理まで工場の基幹業務を全てカバーできる統合型のシステムです。
「ProAxis」によって在庫管理やプロセス間の滞留時間などを一括管理することで、各リードタイムに不要な工程がないか確認することができます。また、管理をシステム化することで、人為的な間違いを防ぎ、イレギュラー対処にかかる時間を減らすことができれば、リードタイムの短縮につながるでしょう。
キッセイコムテックでは、経験豊富なメンバーが、課題の掘り起こしや分析から対応し、お客様の強みを活かすための最適なシステムをご提案します。製造業のシステム導入は、ぜひキッセイコムテックにご相談ください。
「量産」にも「個別受注」にも対応できる生産管理・債権債務管理システム「ProAxis」
リードタイムの短縮を成功させるには品質維持も重要
リードタイムの短縮には、さまざまなメリットがありますが、短縮そのものが目的になっている場合は注意が必要です。それは、無理な設定を行うことにより、「作業工程に支障が出て、品質が低下する」「欠品を招く」「採算が合わない」などのリスクも懸念されるためです。
品質やコストのバランスが崩れ、結果として業務効率化や業績が悪化しないよう、生産効率や品質の向上を目指してリードタイム短縮に取り組むことが大切となりますが、それには、現場状況をしっかり確認し、把握したうえで、現実的に改善・変更可能な作業工程を設定しする必要があるでしょう。ここでは、リードタイムを短縮する過程で、最も重要な課題となる「品質維持」について、気をつけたいポイントや併せて実施したいことを解説します。
品質監視のための継続的なモニタリングを実施する
高速化した生産ラインでは、小さな問題がすぐに大きな問題に発展する可能性があります。これを防ぐには、製造データをリアルタイムかつ継続的にモニタリングする方法が効果的です。各工程で生成される品質データをリアルタイムで収集し、分析することで問題点を即座に特定できるでしょう。その結果、生産効率の低下や不具合が顧客に到達する前に対策を施すことが可能となります。
また、このようなモニタリングは、品質が一定に保たれているかどうかを日常的に確認する上でも重要です。長期的には、モニタリングの結果をもとに工程改善やトレーニングの内容を見直すことで、全体の品質向上を図ることができます。
フィードバックを行い、プロセス改善にいかす
品質の維持と向上を目指すには、モニタリングしたデータを活用し、実際の生産工程での改善点を明確にする必要があります。それには、リードタイムの短縮によって生まれた問題へのフィードバックを正確に解析し、プロセス改善に反映させることが重要です。特に新しい工程やテクノロジーが導入された場合などは、その影響をしっかりと評価し、必要な調整を行いましょう。
従業員への継続的な教育を行う
リードタイムの短縮が進むにつれて、従業員が短時間で多くの作業を行わなければならない状況が生まれることもあるでしょう。その中でも、従業員が品質に対する意識を常に持っていることは、品質の維持と向上には不可欠です。
そのためには、従業員への継続的な教育やトレーニングが必要になります。新しい生産技術や管理手法が導入された場合は、それに対応するための研修を計画的に行いましょう。また、こうした教育プログラムは継続的に見直し、従業員が最新の知識とスキルを持つことで、品質を維持しつつも工程時間を短くすることが可能となり、顧客に対しても安定的に製品を供給することができます。
サプライヤーとのコミュニケーションを強化する
品質保持には外部のサプライヤーとのコミュニケーションも非常に重要です。品質基準や期待値を明確に共有し、継続的なフィードバックループを作ることで、両者の理解が深まり、結果的に自社の製品品質にも良い影響が生まれます。
定期的なミーティングや品質評価の機会を設けるなど、共同で解決策を練ることができる関係性を作れれば、品質維持だけでなく、生産効率の向上にも役立ちます。
リードタイムと混同されやすい用語
リードタイムと混同されやすい用語に、「タクトタイム」と「サイクルタイム」があります。それぞれリードタイム同様、製造現場において以下のように活用されています。
タクトタイム
タクトタイム(Takt Time=TT)とは、1つの製品を完成させるまでに必要な時間のこと。生産計画の指標として活用され、以下の計算式で算出できます。
タクトタイム = 稼働時間 ÷ 生産必要数
タクトタイムは製造業で重視される「標準作業の3要素」の一つです。この3要素とは、「タクトタイム」「作業順序」「標準手持ち」の3つ。これが揃うことで、無駄のない効率的かつ安全な標準作業が実現するとされ、タクトタイムが短いほどより多くの製品を製造できることを表します。無駄のない作業を行うために必要不可欠な要素と考えるとよいでしょう。
サイクルタイム
サイクルタイム(Cycle Time=CT)は、一つの製品における製造開始から完了までの1周期で実際にかかった時間のことで、実測値として活用されます。
サイクルタイム = 実際の稼働時間 ÷ 生産数
サイクルタイムは、余裕や損失を考慮しない場合の時間です。例えば、サイクルタイムがタクトタイムを超過している場合、「工程のいずれかに問題が生じている状態で、原因追求と改善が必要」と判断します。
リードタイムを見直し、業務改善をしよう
製造現場においてリードタイムは、効率的な生産管理を行うために必要な指標です。これを短縮することは、「コスト削減」「需要変動に対する対応力の向上」「顧客満足度のアップ」など、多くのメリットをもたらします。これらのメリットを最大限に享受し、利益の拡大を実現するためには、生産工程を見直し、よりよく改善することが必要不可欠です。ただし、品質の維持・向上ができるよう、無理のない作業工程を設定したり、品質維持に対する意識醸成のための研修をしたりすることも並行して進めたい大切な取り組みとなるでしょう。
生産工程を適切に管理するためには、それをサポートするツール導入なども検討しながら、リードタイム短縮と業務改善を実現しましょう。